長野にすみついて7年目ぐらいの時だったか、まだ夏はきのこより、渓流釣りに夢中で、7月8月は山岳渓流に通う合間をぬって、夏きのこを探しに山に入っていたのだが...梅雨もあけ、気温もどんどん上がって夏本番を迎えた7月の終わり頃、がくんと気温が下がった時期があた...。 週末の休みに当然のように、FLYロッドを持って山岳渓流でイワナ釣りをしいたわけで...気温の低下で少しイワナの活性も低く、適当なところで釣りをあきらめ、車を止めてあるXXX橋の所までもどってみると、僕の車に後ろに一台車が止めてある。
と言っても、細い林道で車を駐車できる場所は限られるわけなので、これと言って不思議にも思わなかったのだが、ちょうどその車の主の二人組が、何故か沢からでなく、山を降りてきたのだ...一目で釣り人では無い事は分かったのだが...一応儀礼的に、「釣りですか〜」と挨拶がわりに声をかける...すると...「きのこだよ!」と、聞くなりいきなり僕の目に裏の血液の温度が上がった。

「えっこの時期にきのこですか?」(今思えば、、どの口が言っとるんじゃいってな、しらばっくれたセリフだな〜)

 そもそも、きのこ採りの人々の多くは、同種の者を警戒する節がある、特に自分のお気に入りの畑が近くにあればなおさら、妙な牽制をしたりするもので..何故そう思うかと言えば、やはり僕自身もそうであるからで..
この時の二人も、山から出た時の目は..げっ!見られちゃったぜ!..てな目とちょっと避けるようなそぶりを見せたのだが、どっからどう見ても、僕がきのこには興味なさそうな、ただの釣り人の姿に見えてちょっと安心して気を許したのか(実はとっても気持ちの広い二人だったのかも..)聞いてもないのに、「この山にはね、コウタケっていうきのこが出るんだよ、それもこんな気温が下がった夏に出やすいんだ..知ってる?コウタケ..」 と、僕は思わず見たこと無い..」と、答えてしまったわけで...「夏のコウタケはね、京都とかに持っていけば、松茸の比ではないくらい高く売れるきのこなんだよ」と説明をはじめくれた。
「で、採れたんですか...その..コウタケ..」と、完全にたぬきじじいの僕..
「そっち相棒のリックの中に、みごとなコウタケ入ってるよ」と、今まで黙ってた相棒さん、ニコニコしながら、背負っていたリックを降ろすと、チャックを開け、包んである新聞で丁寧に開いて...これ! と見せてくれたコウタケは、それは見事な容姿の大株、もその株の大きさと容姿を超えるコウタケは、収穫量は別として、知人達の収穫を含めても、今尚見つけた事も、見せられた事もない..

 渓谷という名に相応しい、切り立った山肌に囲まれた、俺の川....水面の下ばかりを探ていたのだが、二人組が降りてきた斜面の切れ目を見上げ...もう数えきれぬぼど、この場所に通いつづけ..なにげには、いつかここ登ってみようとは思っていた場所...そうか、こういう山にコウタケは出るんだ、それも夏のコウタケ!
 その後毎年夏になると、この場所から川へ降りずに、山へ登るようになったのは言うまでもなく...しかし、山は広い、だからといって、そう簡単に見つかるわけね〜よな〜....と話としては、ありがちなんですが、翌年いきなり...お〜コウタケじゃ〜..なんだ、あるじゃん! てな具合で、10年以上通い続ける事に。

 もちろん、一株も見つけられなかった年もあったりはしたものの、別の沢山の種類のきのこ達も多く発生するおもしろい山だとわかってきて、今も尚まだまだ開拓中....でもここでの願いは、あの時見せられた容姿を超えるコウタケに出会う事、でも何故そう思うのかは..自分でも不明..

 追記....ここでの願い..あっちでの願い...さらに..あそこの願い...願いだらけ...今ここに1つだけ願いを叶えてあげようと声が聞こえてきたら...ためらわずに、沢山のお願いを叶えるって〜願い...って言うだろな〜...つ〜かそんな奴には声は聞こえんか...やっぱし...。

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